『にくをはぐ』という性同一性障害を題材にした漫画が、とても“リアル”だと話題になっています。
その理由について考察します。
【1】1本の読み切り漫画が話題に
性同一性障害を題材にした短編読み切り漫画『にくをはぐ』。作者は時海結以さん原作『ちはやふる 中学生編』の作画を担当する、遠田おとさんです。週刊少年ジャンプのWeb詩である、少年ジャンプ+で掲載されました。
『にくをはぐ』は12月30日に配信されて以来、2日間で80万閲覧を突破。SNS上でも拡散され、漫画ファンの間で話題になっています。
【2】リアルな問題と葛藤が描かれている
では、なぜ“リアル”だと言われるのか。その具体的な描写を3つご紹介します。
(1)親からの期待と葛藤
主人公の小川千秋は、幼いころに母親を亡くし父子家庭で育ちました。
千秋にとって父は、誰よりも大切な存在。父の願いは、亡くなった千秋の母親の遺言でもある「立派なお嫁さんになってね」。千秋は自分の心が男性であることを父には伝えられず、父の望み通りになれないことを悩みます。 (P.22)
自分のために生きるか、望まれた通りに生きるか――。親子関係として、この葛藤に共感する方も多いのではないでしょうか。
(2)想いがすれ違う問題
父もまた千秋を大切にしたいと思うがゆえに、狩猟に憧れている千秋が山に入ることを絶対に許しません。父が「女に狩猟はできない」と言い切るのは女性差別ではなく、大切な娘を傷つけたくないという、千秋を想う考えから来ているものです。
千秋は娘として大切に扱われたいのではなく、ただ憧れの父と狩猟がしたかっただけですが、この気持ちはなかなか伝わりません。 (P.16)
相手を想う気持ちから出た発言が、本当に求めていたこととは真逆になってしまうこと、マイノリティとは関係なく頻繁に起こっている現象ではないでしょうか。
(3)性別を変える問題
手術をすると決めた千秋に対して、親友の高藤が問いかける言葉。「手術して終わりじゃないんだ 性同一性障害は!」このセリフは高藤が千秋を想って発した言葉です。しかし同時に、読者に対する重要な問題提起でもあります。(P.51)
近年では性同一性障害やトランスジェンダーについて、認知度はかなり上がりました。2003年には、手術をすれば戸籍上の性別変更が認められる「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」も施行されています。
しかし、当事者の問題がすべて解決したわけではありません。性転換がゴールであるかのように考えてしまうこともひとつの問題点だということを、すべての人に対して伝えています。
【3】まとめ
身近で大切な人にこそ、本当のことを伝えるのは難しいものです。題材は性同一性障害ですが、非当事者であっても共感する部分が多く、身近に起こるすれ違いについてうまく描いている漫画だと思います。
この作品が漫画の大きな雑誌のひとつである少年ジャンプのウェブ誌に掲載されたことは、大きな意味を持つ出来事です。無料の読み切り漫画ですので、まだ読まれていない方は是非読んでみてください。
(オーノサエ/ライター)
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