『さびしすぎてレズ風俗に行きました』というエッセイマンガで一躍有名になった、永田カビさん。
その作品内でも様々な苦悩が描かれていましたが、続く『一人交換日記』『現実逃避してたらボロボロになった話』なども真っ正面から悩みに向き合っては突破口を模索する姿は純粋過ぎるほどです。そんな永田カビさんの新作が、『迷走戦士・永田カビ』です。
【1】「結婚したい」から始まる迷走
他の作品でもそうなのですが、今作も突然に迷走が始まります。友人の結婚式に出席したカビさんは式場に溢れる幸せを目にし、感動のあまりに「結婚式がしたい」という気持ちを抱くのです。
結婚式がしたい、いっそ一人でも結婚式がしたいという衝動からウェディングドレスを着用しての写真撮影……と、ここまでは「願望を叶えられている」のですが、そこにカビさん自身が考えている性別と衣服などの向き合い方や「思っていたものと違う」という気付きが細かく描かれていきます。
異性であれ同性であれパートナー同士に存在する愛が実在するのかどうかも実感出来ず、それが実在するということに安心したり希望を持つ一方、何故今までそれが実在しないと考えていたのかの理由について等々、もしかすると本筋以外の部分に共感する方もいらっしゃいそうですね。
【2】「ハードル」を大袈裟に捉えるかどうか
作品内で、「謎のハードル」というものが出てきます。これはすごく「分かる……!」と何度も頷いたのですが……。
マジョリティでもマイノリティでもパートナーを得て幸せを積み重ねていく方々と、色々あれどそうではない場所にいる自分には「どうやら越えていない謎のハードルがあるのでは?」と考えて細かく観察していこうとする姿は、難しいことと分かっていても向き合わねば気になってしまうというようなカビさんの一端が見えますね。
それを飛び越えたり出来るかは別問題として、先ず自分にあるものを確認してみよう。自分の中で引っかかっているものはなんだろう。他の作品でもそうですが、足掻きながらも何かを掴もうとする姿を是非多くの方には実際に読んで触れていただけたら幸いです。
【3】「幸せ」って何だろう?
作品内で試行錯誤しているカビさんですが、作品を読む側も「幸せや、愛とかって何だろう」と考えさせられます。
確かに結婚式というのは幸せの分かりやすい形ですよね。同性婚の制度が出来ていなくともパートナーと結婚式を挙げた方々もいらっしゃるのですから、周囲に伝わりやすい祝い事でもあります。
とはいえ、じゃあ結婚すれば幸せなのか、パートナーがいれば幸せなのかといわれるとそれもまた難しいですよね。これはもうセクシャルマイノリティ云々ではなく全ての人に当て嵌まるもので、「何が好きか」「何に重きを置くか」以外にも各々の価値観や願望等々と考えればキリが無く、実際これを書いている筆者も「自分の幸せって何だ……?」と迷走しそうになりました。
けれど、自分にとっての幸せの目安のようなものについては一度考えてみて損はない気がします。
【4】まとめ
さて現在連載中のお話で、カビさんは見えてきたハードルに対してひとつひとつ考えては「ハードル」そのものに対しても「越えなければならないのか?」と疑問を抱いています。
例えばの話ですが、セクシャルマイノリティを自覚している人の中にはどうすればマジョリティに溶け込んで(言い方を変えれば「セクシャルマイノリティだと気付かれずに」)生きられるかと悩む人には似たような「ハードル」が見えているのではないでしょうか。
そうなってくると、それはもう「飛び越えなければならない障害物としてのハードル」にしか見えなくなり、「生きにくさ」を余計に抱えてしまう可能性があるんですよね。よくよく見れば実は障害物ではなかった、飛び越えなくても問題ない方法がある、もしかすると「そんなものは無かった」なんてこともありえます。
たまに迷走してしまう筆者のような方、実際厄介なハードルが見えている方、一度永田カビさんの迷走に触れてみませんか?
(シキ/ライター)
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